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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)458号 判決 1980年10月16日

神奈川県川崎市川崎区池田二丁目七番一二号

昭和四九年(ワ)第四五八号事件原告、同五四年(ワ)第九八九八号事件当事者被参加人(以下「原告」という) 宮代商事有限会社

右代表者代表取締役 宮代房子

東京都港区海岸三丁目二番一五号

昭和四九年(ワ)第四五八号事件原告、同五四年(ワ)第九八九二号事件当事者被参加人(以下「原告」という) 東京湾建物株式会社

右代表者代表取締役 藤山純

東京都足立区千住二丁目一六番地

昭和四九年(ワ)第四五八号事件原告(以下「原告」という) 三佳興業株式会社

右代表者代表取締役 舛田起

東京都渋谷区渋谷二丁目一四番一三号

昭和四九年(ワ)第四五八号事件原告、同五四年(ワ)第九八九三号事件当事者被参加人(以下「原告」という) 岡崎合資会社

右代表者代表社員 岡崎兵馬

<ほか二名>

東京都文京区大塚三丁目二番一号

昭和四九年(ワ)第四五八号事件原告、同五四年(ワ)第九八九五号事件当事者被参加人(以下「原告」という) 文京ビル株式会社

右代表者代表取締役 武井又三

神奈川県横浜市南区庚台六一番地

昭和四九年(ワ)第四五八号事件原告、同五四年(ワ)第九八九六号事件当事者被参加人(以下「原告」という) 上郎敏行

東京都板橋区志村二丁目一二番一号

昭和四九年(ワ)第一〇六八七号事件原告、同五四年(ワ)第九八九七号事件当事者被参加人(以下「原告」という) 株式会社岩月ビル

右代表者代表取締役 岩月安以

右原告ら訴訟代理人弁護士 片山繁男

同 片山和英

東京都千代田区九段北一丁目一四番六号

昭和四九年(ワ)第四五八号、第一〇六八七号事件被告、同五四年(ワ)第九八九二号、第九八九三号、第九八九五号、第九八九六号、第九八九七号、第九八九八号事件当事者被参加人(以下「被告」という) 日本住宅公団

右代表者総裁 澤田悌

右訴訟代理人弁護士 鵜澤晉

同 大橋弘利

同 草野治彦

昭和五四年(ワ)第九八九二号、第九八九三号、第九八九五号、第九八九六号、第九八九七号、第九八九八号事件当事者参加人(以下「当事者参加人」という) 前田謙一

<ほか一三五名>

右当事者参加人ら訴訟代理人弁護士 新井章

同 大森典子

同 江森民夫

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  当事者参加人らの参加の申出を却下する。

三  訴訟費用中、原告らと被告との間に生じた分は原告らの負担とし、参加によって生じた分は当事者参加人らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

1  請求の趣旨

(一) 被告は、

(1) 原告宮代商事有限会社から金一三四三万三三〇七円の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し別紙物件目録一記載の建物につき、

(2) 原告東京湾建物株式会社から金四四八〇万四四五〇円の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し同目録二記載の建物につき、

(3) 原告三佳興業株式会社から金一五一五万六三〇〇円の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し同目録三記載の建物につき、

(4) 原告岡崎合資会社から金二八六一万九三五〇円の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し同目録四記載の建物につき、

(5) 原告文京ビル株式会社から金二四六五万一六五〇円の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し同目録五記載の建物につき、

(6) 原告上郎敏行から金一一〇二万三〇四〇円の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し同目録六記載の建物につき、

(7) 原告株式会社岩月ビルから金一六八一万八〇〇〇円の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し同目録七記載の建物につき、

それぞれ引渡し、及び、原告宮代商事有限会社、同三佳興業株式会社、同株式会社岩月ビルに対しては別表一の一⑥変更契約欄記載の日の売買を原因とする、その余の原告らに対しては同表④譲渡契約欄記載の日の売買を原因とする、各所有権移転登記手続をせよ。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2  当事者参加人らの請求の趣旨に対する答弁

(一) 本案前の申立

(1) 主文第二項同旨。

(2) 訴訟費用は当事者参加人らの負担とする。

(二) 本案の答弁

(1) 当事者参加人らの請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は当事者参加人らの負担とする。

二  被告

1  原告らの請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  当事者参加人らの請求の趣旨に対する答弁

(本案前の申立)

(一) 主文第二項同旨。

(二) 訴訟費用は当事者参加人らの負担とする。

三  当事者参加人らの請求の趣旨

1(一)  別紙当事者目録(六)記載の当事者参加人と原告宮代商事有限会社との間において、別紙物件目録一記載の建物のうち二〇六号室が、

(二) 別紙当事者目録(一)記載の各当事者参加人と原告東京湾建物株式会社との間において、別紙物件目録二記載の建物のうち、右当事者目録第三欄記載の当該各号室が、

(三) 別紙当事者目録(二)記載の各当事者参加人と原告岡崎合資会社との間において、別紙物件目録四記載の建物のうち、右当事者目録第三欄記載の当該各号室が、

(四) 別紙当事者目録(三)記載の各当事者参加人と原告文京ビル株式会社との間において、別紙物件目録五記載の建物のうち、右当事者目録第三欄記載の当該各号室が、

(五) 別紙当事者目録(四)記載の各当事者参加人と原告上郎敏行との間において、別紙物件目録六記載の建物のうち、右当事者目録第三欄記載の当該各号室が、

(六) 別紙当事者目録(五)記載の当事者参加人と原告株式会社岩月ビルとの間において、別紙物件目録七記載の建物のうち、右当事者目録第三欄記載の当該各号室が、それぞれ被告の所有であることを確認する。

2  被告と

(一) 別紙当事者目録(六)記載の当事者参加人との間において、同当事者参加人が別紙物件目録一記載の建物のうち二〇六号室について、

(二) 別紙当事者目録一記載の各当事者参加人との間において、右各当事者参加人がそれぞれ別紙物件目録二記載の建物のうち右当事者目録第三欄記載の当該各号室について、

(三) 別紙当事者目録(二)記載の各当事者参加人との間において右各当事者参加人がそれぞれ別紙物件目録四記載の建物のうち右当事者目録第三欄記載の当該各号室について、

(四) 別紙当事者目録(三)記載の各当事者参加人との間において、右各当事者参加人がそれぞれ別紙物件目録五記載の建物のうち右当事者目録第三欄記載の当該各号室について、

(五) 別紙当事者目録(四)記載の各当事者参加人との間において、右各当事者参加人がそれぞれ別紙物件目録六記載の建物のうち右当事者目録第三欄記載の当該各号室について、

(六) 別紙当事者目録(五)記載の各当事者参加人との間において、右各当事者参加人がそれぞれ別紙物件目録七記載の建物のうち右当事者目録第三欄記載の当該各号室について、

それぞれ賃借権を有していることを確認する。

3  訴訟費用は、原告ら及び被告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの請求について

1  請求原因

(一)(1) 被告は、昭和三〇年七月八日法律第五三号日本住宅公団法(以下「法」という。)に基づき同月二五日設立された特殊法人であり、法一条規定の目的を達成するため、法三一条三号により、市街地において住宅の建設と一体として商店、事務所等の用に供する施設の建設を行い、この住宅付市街地施設(ないし市街地住宅)の賃貸その他の管理及び譲渡を行なうことを業務の一とする。

(2) 右住宅付市街地施設の建設用敷地については、被告は施設の譲受を希望する土地の所有者又は借地権者らの提供にまつこととしていたが、原告らは、いずれも後述のとおり、被告に右敷地の提供をなしたうえ、これらの建設に関与し、被告との各契約締結の当事者となった者又はその承継人である。

(二)(1) 被告は、右建設用地の取得を容易にするために、昭和三一年以降一般人に対しパンフレットを発行し(但し昭和三三年度を除く)、或いは説明会を開催する等して、以下のような契約の申込の誘引を行った。

イ 被告は、土地提供者から該土地を賃借し、被告の費用をもって右土地上に店舗、事務所等の施設部分を伴った耐久構造の住宅を建設する。

ロ 被告は、土地提供者に対し、建物竣工と同時に右施設部分と一部の住宅部分を譲渡して、譲渡代金につき約一〇年間の割賦償還を受け、残余の住宅部分については右提供者の優先的入居を認める。

ハ 被告は、右土地提供者又はその指定する者に対し、右残余の住宅部分を契約日より一〇年後に適正価格で譲渡する(なお、パンフレットにはこの趣旨で、「一〇年後の譲渡、公団アパートは一般の人に賃貸しますが、一〇年経ちましたら、その時に決める価額でアパートのままあなたに譲渡してもよいことにします」と記載されていた。)。

(2) 原告東京湾建物株式会社、同岡崎合資会社、同文京ビル株式会社、同上郎敏行(以下「原告東京湾建物ら四名」という)と宮代茂儀、舛田七右衛門、岩月繃帯材料工業合名会社(以下「宮代ら三名」という)は、いずれも別表一の一①誘引時期、内容欄記載のとおり、別表一の二①代表権限者欄記載の被告東京支所長山名酒喜男又は関東支所長青木亮から前項の申込の誘引を受け、また、右支所長らの使者或いは機関の一員として実際の事務に携わっていた別表一の二②担当欄記載の各職員を通じて右誘引内容中住宅部分の一〇年後譲渡を確言、強調されたので、別表二③敷地欄記載の各土地を前記住宅付市街地施設の敷地として被告に提供することにした。

(3) 原告東京湾建物ら四名と宮代ら三名は、被告に対し、それぞれ別表一の一②申込の時期欄記載の各日に右申込の誘引に応じて、前記(1)イないしハを内容とする契約の申込をなし、被告は同表③承認通知時期欄記載の各日に右各申込の承諾(譲渡承認)をした。

(三) その後右当事者間では更に契約内容を具体的に確定させ、以下のとおり各契約を締結した。

(1)イ 被告は、別表二③敷地欄記載の各土地につき、同欄記載の各所有者との間で、同表④土地賃貸借契約日欄記載の日に、それぞれ、被告を単独の賃借人とし、又は被告が従前の借地権者と借地権を共有する旨の賃貸借契約を締結した。

ロ 続いて、被告は、原告らと地質調査工事受託等契約及び設計業務受託等契約を締結し、右敷地において建物の建設に着手し、別表二①、②欄記載の規模、名称の住宅付市街地施設を完成させ、その所有権を取得した。

ハ 被告は、原告東京湾建物ら四名及び宮代ら三名との間で、それぞれ、別表一の一④譲渡契約欄記載の各日に、同人らが提供した敷地上に建築された前記住宅付市街地施設のうち店舗、事務所等の施設部分(以下単に「施設」という)を土地提供者たる同人らに譲渡する旨の譲渡契約を締結し、次いで、同表⑤割賦金総額確定契約日欄記載の日に、右譲渡代金を確定する割賦金総額確定契約を締結した。

(2)イ 別紙物件目録一ないし七記載の各建物(以下「本件一ないし七建物」、または「本件各建物」という)は、前記住宅付市街地施設の住宅部分であるが、被告は、前記施設譲渡契約の締結に際し、宮代茂儀との間で本件一建物につき、原告東京湾建物株式会社との間で本件二建物につき、舛田七右衛門との間で本件三建物につき、原告岡崎合資会社との間で本件四建物につき、原告文京ビル株式会社との間で本件五建物につき、原告上郎敏行との間で本件六建物につき、岩月繃帯材料工業合名会社との間で本件七建物につき、それぞれ、右契約日を起算点とする一〇年の期限付売買契約を締結した。

ロ 右各契約は、別表一の二①欄記載の被告職員が、被告を代表して締結したものである。

ハ 右ロの事実が認められないとしても、

(イ) 前記各契約は、別表一の二②欄記載の被告職員が被告を代理して締結したものである。

(ロ) 被告は、右契約に先だって、右被告の職員らに対しその代理権を与えた。

(ハ) 仮にそうでないとしても、

a 被告は、前記(三)(1)イないしハ記載の各契約の締結に関し、右被告の職員らに当該担当課員としての事務を行わせていた。

b このように右職員らは、被告の担当課員として右各契約の締結に当る等一切の手続を行っていたのであるから、原告東京湾建物ら四名及び宮代ら三名が前記期限付売買契約を締結するにあたり、同職員らが右契約締結の権限を有すると信じ、かつ、このように信ずべき正当の理由がある。

(ニ) 原告宮代商事有限会社、同三佳興業株式会社、同株式会社岩月ビルは別表一の一⑥変更契約欄記載のとおり、被告の承諾を得て、それぞれ宮代茂儀、舛田七右衛門、岩月繃帯材料工業合名会社から右期限付売買契約及び施設譲渡契約等前記各契約上の権利義務を承継した。

(ホ) その後、原告らは、被告と幾度か前記期限付売買契約の存在を前提としてこの履行に関し折衝したが、被告は、本訴に至るまで右契約について否認したことはなく、殊に被告の理事川口京村は、被告を代表して原告らに対し昭和四八年一一月一七日、右契約の存在を承認したうえ、履行時期の延期を求めた。

従って、仮に右契約が当初有効に成立していなかったとしても、被告は、右日時にこれを追認する旨の意思表示をしたものである。

(ヘ) なお、被告は、後記のように、右期限付売買契約の成否について覚書の有無、内容を問題としているが、被告は、前記右契約締結の当事者に対し右覚書とその内容につき特別説明を加えることなく、ほしいままにこれを原告東京湾建物株式会社と同文京ビル株式会社を除くその余の当事者との間で、割賦金総額確定契約書に添付し、或いは別に作成したのであり、これらの覚書は、何ら右売買契約の効力を左右するものではない。また、被告は、原告上郎敏行、及び舛田七右衛門に対し、覚書を単に形式上の書類であるとの説明をしており、本件以外で実際に被告が覚書の有無、内容に拘わらず、住宅部分の一〇年後譲渡を完了した例もある。

仮に覚書記載の約定の成立が認められるとしても、それは、本件各建物譲渡の相手方を法人に限る等、権力を背景に重大な所有権の制限を付していて、衡平の原則に反するものである。

右の如き理由により、後記2(三)(3)記載の被告の主張は理由がない。

(四) 本件各建物の適正価格は、固定資産税算出上の評価額を基準とし、第三者が賃借権を有することから右評価額の五割とすると、次のように算出される(円未満四捨五入)。

(1) 本件一建物 評価額金二六八六万六六一三円の五割にあたる金一三四三万三三〇七円。

(2) 本件二建物 評価額金八九六〇万八九〇〇円の五割にあたる金四四八〇万四四五〇円。

(3) 本件三建物 評価額金三〇三一万二六〇〇円の五割にあたる金一五一五万六三〇〇円。

(4) 本件四建物 評価額金五七二三万八七〇〇円の五割にあたる金二八六一万九三五〇円。

(5) 本件五建物 評価額金四九三〇万三三〇〇円の五割にあたる金二四六五万一六五〇円。

(6) 本件六建物 評価額金二二〇四万六〇八〇円の五割にあたる金一一〇二万三〇四〇円。

(7) 本件七建物 評価額金三三六三万六〇〇〇円の五割にあたる金一六八一万八〇〇〇円。

(五) よって、被告に対し、原告宮代商事有限会社は本件一建物につき、同東京湾建物株式会社は本件二建物につき、同三佳興業株式会社は本件三建物につき、同岡崎合資会社は本件四建物につき、同文京ビル株式会社は本件五建物につき、同上郎敏行は本件六建物につき、同株式会社岩月ビルは本件七建物につき、それぞれ被告が各原告より前記各建物評価額相当の金員の支払を受けるのと引換えに、いずれもその引渡、及び右各売買を原因とする所有権移転登記手続を求める。

2  被告の請求原因に対する認否及び主張

(一) 請求原因(一)(1)、(2)の事実は認める。

(二)(1) 同(二)(1)の事実のうち、被告がパンフレットの配布、及び説明会の開催等により建設用地の提供を求めたこと、その内容がイ、ロのようであったこと、昭和三二年度までに作成されたパンフレットには右のほか、ハの括弧書の語句が記されていた(但しこれに続けて、「譲受けられるご希望がありましたら必要な覚書を交換いたします。」と記載されていた)ことは認めるが、その余は否認する。

(2) 同(2)の事実のうち、原告東京湾建物株式会社、同岡崎合資会社、同上郎敏行、宮代茂儀、舛田七右衛門が、住宅付市街地施設に関するパンフレット等によって、被告の職員から請求原因(二)(1)イ、ロの内容の説明を受けたこと、原告東京湾建物ら四名と宮代ら三名が被告に住宅付市街地施設の敷地として原告ら主張の各土地を提供するに至ったこと、右の者らに対する後記施設の譲渡手続当時、山名酒喜男、青木亮両支所長(支所長は現在支社長と改名され、同時に理事でもある。)が被告の代表権を有し、原告ら主張の担当者のうち、多部健吉を除いたその余の者が、その頃被告の当該担当課に在籍し、両支所長の補助者として担当事務を行っていたことは認め、右各支所長が原告主張の申込の誘引行為を行ない、担当職員を通じて住宅部分の一〇年後譲渡を確言、強調したこと、右多部健吉が当時担当課に在籍していたことは否認し、その余は不知。

なお、この住宅付市街地施設の建設及び施設譲渡に関する手続を被告の関連組織に結びつけて図示すると別表四の如くであり、右手続を担当し、土地提供者と直接交渉をもつ課は、被告の東京支所においては昭和三二年三月三一日までは賃貸住宅課、同年四月一日から同三四年四月七日までは住宅企画課、同月八日以降は市街地住宅課であり、関東支所においては、同四〇年四月三〇日まで住宅企画課、同年五月一日以降市街地住宅課であり、右被告の職員らはこれらの課に属していたのであるが、被告所有の住宅部分の譲渡に関することはこれらの課の分担事務には含まれておらず、それは管理部管財課の担当事務となるのである。従って、仮りに原告主張の被告の職員が住宅部分の譲渡に関する件につき何らかの発言をしたとしても、代表権限者の特別の授権に基づかない限り何らの効力も生じない。

(3) 同(3)の事実のうち、原告東京湾建物ら四名及び宮代ら三名から被告に対し施設譲受の申込がなされ、被告から同人らに対し施設譲渡承認がなされたこと、原告岡崎合資会社、岩月繃帯材料工業合名会社、舛田七右衛門の右申込日時及び同人らに対する被告の譲渡承認の日が原告ら主張のとおりであることは認め、原告上郎敏行の施設譲渡の申込日時は不知、その余は否認する。

被告の右譲渡承認は、施設のみに関することであり、被告が取得する住宅部分の将来の譲渡の点はその内容となっていないし、また右施設譲渡承認は、被告において、爾後土地賃貸借契約、地質調査工事及び建物設計業務の各受託契約等の各契約が支障なく締結、履行されることを前提に、各契約上の債務を履行する用意のあることを宣言するものにすぎず、右譲渡承認により直ちに原告ら主張の如き債権債務関係が生ずるものではない。

(三)(1) 同(三)(1)イないしハの事実は認める。

(2) 同(2)イの事実のうち、本件各建物が住宅付市街地住宅の住宅部分であることは認めるが、その余は否認する。施設の譲渡契約は、文字どおり施設のみを目的とするものであり、被告が所有権を取得する住宅部分の譲渡とは全く無関係である。

同(2)ロの事実は否認する。

同(2)ハ(イ)、(ロ)の事実は否認する。

同(2)ハ(ハ)a、bの事実は、別表一の二②欄記載の多部健治以外の者が被告の担当課で前記両支所長の補助者として担当事務を行っていたことは認め、その余は否認する。

同(2)ニの事実のうち、住宅部分の期限付売買契約の存在を前提とし、この契約上の地位を承継したとする点は否認し、その余は認める。

同(2)ホの事実のうち、被告の川口理事(但し代表権を有しない)が一部原告と本件各建物の件で昭和四八年一一月一七日会談し、被告の意向を表明したことは認め、その余は否認する。被告は元来期限付売買契約の存在を否認しており、右契約の承認若しくは追認をしたことがない。

同(2)ヘの事実のうち、被告と原告ら主張の当事者との間で覚書が作成されていること、被告が覚書の有無に拘わらず、施設譲受人に対する住宅部分の一〇年後譲渡を完了した例があることは認め、その余は否認する。右覚書の大部分は割賦金総額確定契約の締結とともに作成されたが、この契約書に添付されたのではなく、別個の約束が表示されているものである。なお右譲渡例は、後述のように、昭和三一年度及び昭和三二年度の建設計画により、住宅部分の一〇年後譲渡の方針を立てていた住宅付市街地施設についてのものであり、本件各建物は、いずれも被告の右建設方針が変更された昭和三三年度建設計画以降のものであるから、同一視することはできない。

(3) 被告の主張

前述の如く、本件各建物について期限付売買契約は締結されていないのであり、このことは次の理由からも明らかである。

イ 被告は住宅付市街地施設につき、内部通達により各建設年度毎に建設方針を立てており、昭和三一年度及び昭和三二年度の建設計画では、「土地の提供者が施設譲渡を受けた后、一〇年経過后に住宅部分の譲渡を希望すれば当該住宅部分譲渡の際定める価額でこれを譲渡することができるものとする。この場合必要であれば被告は土地の提供者と覚書を交換するものとする」と定めていたが、昭和三三年度建設計画以降のものについては右方針を変更し、「賃貸住宅(住宅部分)を他に処分することになった場合は、当該施設の譲受人にこれを譲渡することができるものとし、譲受人と覚書を交換してもよいものとする」とした。

被告は、住宅付市街地施設建設の際、右各年度の建設方針に則って当事者間で覚書を作成し、住宅部分の譲渡の件につき取決めをしている場合がある。

ところで、日本住宅公団法施行規則(以下「規則」という。)一五条によると、「被告は特別の必要があると認めるときは、建設大臣の承認を得て賃貸住宅を、賃借人、当該賃貸住宅の建設と一体として建設された法三一条三号の施設の譲受人又は会社その他の法人に譲渡することができる。前項の規定により譲渡する場合における譲渡の対価及び譲渡の方法は被告が建設大臣の承認を得て定める。」と規定されており、本件各建物も右規則の「賃貸住宅」であるから、その譲渡については建設大臣の承認を要することになり、譲渡行為自体のほかに譲渡の対価、方法も右承認の対象となる。

ロ 被告は、別表三①建設計画年度欄記載の年度の前記建設方針に従い、同表②覚書締結日欄記載の日に、宮代茂儀、原告三佳興業株式会社、同岡崎合資会社、同上郎敏行、同株式会社岩月ビルとの間で、それぞれ賃貸住宅(住宅部分)譲渡に関する覚書を作成した。

右各覚書には、賃貸住宅譲渡の条件について、(イ)被告がその所有する賃貸住宅を他に譲渡するかどうか決定すること、(ロ)被告が定める期間内に譲受資格を有する者が譲受を希望すること、(ハ)譲渡の対価の支払方法及び譲受人の行う建物の管理の方法等当該建物の条件について協議が成立すること、(ニ)被告が施設譲渡契約を解除し又は当該施設を譲受けた場合でないことが共通して記載され、右譲受資格者について、原告上郎敏行、宮代茂儀との間で取交された覚書では同人らの指定する会社等の法人と限定されたが、その余の覚書では覚書締結者が譲受資格を有するとされた。

右のとおり、賃貸住宅の譲渡契約が成立するためには、前記(イ)ないし(ハ)の条件が充たされることが必要であり、本件においては未だ建設大臣の承認による(イ)の譲渡決定もない以上、譲渡契約は未成立である。

(四) 同(四)の事実は、本件建物の昭和四九年度固定資産税評価額が原告主張のとおりであることを認め、その余は争う。仮に被告において原告らに対し本件建物を譲渡する義務があるとしても、前述のとおり、右譲渡の対価は被告がこれを譲渡する際、建設大臣の承認を得て定めるべきものである。

二  当事者参加人らの請求について

1  請求原因

(一) 別紙当事者目録記載の各当事者参加人は、それぞれ、同各目録第四欄記載の日に、被告から、同目録第三欄記載の当該各室を賃借し(以下「本件各賃貸借契約」という)、その引渡を受けて居住している。

(二) 当事者参加人らが賃借している本件一、二、四ないし七建物は、いずれも被告の所有である。

(三) ところが、原告宮代商事有限会社は本件一建物につき、同東京湾建物株式会社は本件二建物につき、同岡崎合資会社は本件四建物につき、同文京ビル株式会社は本件五建物につき、同上郎敏行は本件六建物につき、同株式会社岩月ビルは本件七建物につき、いずれもこれを被告から期限付譲渡契約により譲渡を受け、その各所有権を取得したと主張している。

(四) しかし、被告と前記各原告間の期限付譲渡契約は、不存在または無効であり、右各原告は、前記本件各建物の所有者ではなく、本件各賃貸借契約における賃貸人たる地位を有する者は依然として被告である。

(五) 当事者参加人らは、前記原告ら六名(以下「原告ら六名」という)と被告との間の本件訴訟(以下「本訴」という)につき、民事訴訟法七一条にいう「訴訟ノ結果ニ因リテ権利ヲ害セラルヘキコトヲ主張スル第三者」にあたる。その理由は、以下のとおりである。

(1) 当事者参加人らが被告から賃借している本件一、二、四ないし七建物(以下「本件賃貸住宅」という)は、規則一五条にいう被告の「賃貸住宅」にあたるが、被告は、当事者参加人らに対し、後述のとおり賃貸住宅の譲渡を原則として禁止している規則一五条に基づき、あるいは、当事者参加人らと被告との間の本件各賃貸借契約(右契約は、右規則を前提として締結されたものであるから、右規則の内容が右契約上の債権債務の内容となっている)に基づき、本件賃貸住宅を「特別の必要」がない場合には譲渡しない旨の債務を負っているが、本訴において被告が敗訴すると、右債務の履行が不可能となる。

(2) 当事者参加人らが被告と締結した本件各賃貸借契約は、低廉で文化的な住宅を、住宅に困窮する勤労者に提供するという使命をもつ被告を賃貸人とし、民法、借家法の適用を受けるほか、法、規則その他の法令の規制を受け、その結果、民間で一般に行なわれている家屋賃貸借契約とは質的に大きな相違がある。即ち、たとえば第一に、公団住宅への入居申込資格のあるのは、住宅に困窮し、または同居しようとする親族がある者に限られ(規則一三条)、世帯向住宅では賃借人の世帯構成がかわって単身で居住するようになった場合は単身者向住宅に転居を求められる場合がある。すなわち、法一条の趣旨から、入居対象者が限定されている。第二に、入居者の決定は新聞ラジオなどで公募され、抽せんなどの公正な方法で決定されるようになっており被告側で自由に選択することはできない。もし虚偽の事実を申告するなど不公正な手段で入居したときは契約を解除される。第三に、権利金その他これに類する金品の受領が禁止されているので、入居者は家賃と敷金、共益費の支払以外の負担を必要としない。第四に、家賃は、収益を目的とする民間と異なって、建設原価を基準として定められ、物価上昇等による無制限な賃上げは許されていない(規則九条、一〇条等)。第五に、契約期間は契約書の文言上は一年間とされているが、実質的には期限の定めなく居住でき、賃貸人の自己使用の必要等の正当事由による明渡請求は行われていない。第六に、公的な管理の制度が整備されている。

そして、これら民間の一般的な賃貸借契約と異なる特殊の契約内容は、法令、規則、契約書等に必らずしも明文化されておらず、本件賃貸住宅の所有権が被告から第三者に移転すると、借家法の存在にもかかわらず、右のような従前の被告と当事者参加人らとの間の本件各賃貸借契約の内容は、大きく変容させられる危険が大である。現にすでに被告から第三者に払い下げられた住宅においてはほとんど日をおかずして家賃が数倍にはね上がり、新たな賃貸人より明渡の請求がなされ、二、三年にしてほとんどの居住者が他へ転居させられるなどの事態がおこり賃貸住宅はほとんどすべて事務所や店舗に変容してしまっている。

従って、被告が本訴において敗訴することになると、当事者参加人らは、本件賃貸住宅での居住が継続できなくなり、法律上、事実上多大の損害をうけることとなる。

(3) 本訴において被告は、表面的には応訴して、一応抗争する態度をとっているが、後述のような規則一五条の存在や被告の性格からくる賃貸住宅の処分の制限の原則については一切主張せず、当然なすべき抗争を行っていない。

しかも本来空家の入居者募集も公正な方法でなされなければならないのに、本訴が起された後、優先入居のわくをこえて原告らが自分の関係者を入居させたり、本来とってはならないはずの権利金を原告らにおいてとったりしている事実、本訴提起以後、住宅について被告の管理がずさんとなっている事実、本訴提起後の本件賃貸住宅の入居者からは、「被告が他に賃貸住宅を譲渡した際は他に転居する」旨の念書をとっている事実などがあり、これは、明らかに原告らと被告間で、いずれは本件賃貸住宅を原告らに譲渡することの話合いのもとで、あるいは少なくとも暗黙の了解のもとに、行なわれていることといわざるをえない。そうであるとすると、被告は、いくら訴訟上では争っている形をとっていても、実質的には、本当に争っているとはいえず、原告ら六名と被告間の本訴は馴合訴訟であるといわなければならない。

(4) したがって当事者参加人らは、原告ら六名と被告との間の馴合訴訟を防止し、自己の権利を確保するため、本訴につき民訴法七一条の当事者参加をする利益を有する。

(六) よって、当事者参加人らは、その請求の趣旨1記載のとおり、それぞれ、原告ら六名各自との間で、本件賃貸住宅の各室が被告の所有であることの確認、請求の趣旨2記載のとおり被告との間で右各室につき賃借権を有していることの確認を求める。

2  請求原因に対する原告ら六名の答弁

(一) 本案前の答弁(請求原因(五)についての認否及び主張)

(1) 請求原因(五)(1)ないし(4)は、いずれも争う。

(2) 被告と当事者参加人らとの間の本件各賃貸借契約は、一般民間における建物賃貸借契約と異なる特殊の賃貸借契約ではない。本件各賃貸借契約について借家法の規制の存するかぎり、原告ら六名が被告から本件賃貸住宅の譲渡を受け、賃貸人たる地位を承継したとしても、当事者参加人らにおいて何らの不利益も蒙るものではなく、また、そのおそれもない。したがって、当事者参加人らには本訴につき当事者参加をする資格がない。

(二) 本案に対する答弁(請求原因(一)ないし(四)についての認否及び抗弁)

(1) 請求原因(一)の事実は認める。

(2) 同(二)のうち、本件賃貸住宅がもと被告の所有であったことは認める。

(3) 同(三)のうち、原告ら六名が、当事者参加人ら主張のとおり、本件賃貸住宅につき被告から期限付譲渡契約により譲渡を受けたものと主張していることは認める。

(4) 同(四)は争う。

(5) (抗弁)原告ら六名は、請求原因(三)の主張のとおり、それぞれ被告から本件賃貸住宅の期限付譲渡を受けたものであり、その原因事実は、本訴請求原因事実のとおりである。

3  請求原因に対する被告の答弁

(一) 本案前の答弁(請求原因(五)についての認否及び主張)

(1) 請求原因(五)(1)は争う。

規則一五条は、その文言からも明らかなように被告が賃貸住宅を譲渡するときに遵守すべき要件を定めた行政命令であり、従って、右規則があるからといって、被告が当事者参加人らに対してその主張するような義務を負うものではない。

(2) 同(2)は争う。

被告と当事者参加人らとの法律関係は、取交わされた所定の賃貸借契約書及び民法などの法律に基づくのであり、それらの間の賃貸借契約が一般の賃貸借契約と比較して質的相違をきたすような規定、合意は存在しない。たしかに、被告の管理組織は整備されており、また、被告が当事者の一方として締結した契約の解釈に当っては、公共性、画一性、集団性といった点を考慮すべきではあるが、これらは、契約履行面の問題であって契約内容の質的相違を生じさせるものではない。従って、本件賃貸住宅を譲渡することにより、当事者参加人らの法的地位が大きく変容され、当事者参加人らが法律上事実上多大の損害を被るということはない。

(3) 同(3)は争う。

被告が原告らの主張を容認できないとして主張、立証をつくしていることは本訴の経過により明らかで、当事者参加人ら主張の如き馴合訴訟は全く存在しない。本件賃貸住宅には建設当初から施設の譲受人のため優先入居の制度があり、これは当事者参加人らの入居に先立ち取決められたことである。そして、空室の募集は被告の専権であるばかりか、空室の有無と当事者参加人らとの賃貸借もしくは本件賃貸住宅の譲渡の有無を争う訴訟とは何等の関係もない。よって、馴合訴訟の存在を前提とする当事者参加人らの主張も失当である。

(4) かような次第で当事者参加人らの主張は主張自体に誤りがあり、民事訴訟法第七一条前段の参加理由も認め難いものである。ところで、右法条による参加の理由について、大別して(1)判決の効力承認説(2)詐害訴訟防止説(3)利害関係説があるが、当事者参加人らの主張によるも本訴の判決の既判力が当事者参加人らに及んだり、又は判決の反射的効力を受けたりする関係にないことは明らかであるし、本訴が馴合訴訟であるとしてこれを防止する必要のないことは前述のとおりである。前記(3)の説は判決の既判力又は反射的効力が及ぶ場合に限らず第三者の権利又は法律上の地位が他人間の訴訟の目的物の存否を論理的前提としているため事実上権利侵害を受けざるをえない場合にも参加を認められるとするが、補助参加の利害関係より狭く解すべきものとするもので、後日参加人と本訴の当事者間で新訴訟が係属するのやむなきに至り、そのため本訴の当事者間の既存判決のため参加人に不利益を招来し、また、判決の牴触をきたすおそれがあることを理由とするものである。しかし、当事者参加人らは本件賃貸住宅の賃借人にすぎず本訴の判決に続き後日本訴の当事者と訴訟関係に入る必然性は存在せず、従って、本訴の判決のため不利益を招来し、又、判決の牴触をきたすおそれのある立場にいるものではない。このことは、現在の私法体系において所有権と賃借権は物権及び債権として明白に区別せられ、かような区別に立って借家法第一条により賃借権の対抗力が認められているのであるから、所有権に関する判決の効力もしくは反射的効力が賃借権に当然及ぶこともないし、又、その判決の結果、賃借人が後日訴訟の当事者となる必然性は存在しない。そうすると前記(3)の説によるも当事者参加人らには本訴に当事者参加をする理由がない。

(二) 本案の答弁(請求原因(一)ないし(四)についての認否)

請求原因(一)ないし(四)は認める。

4  原告ら六名の抗弁(本訴請求原因)に対する当事者参加人らの認否及び主張

(一) 本訴請求原因に対する認否

(1) 原告らの請求原因(一)(1)の事実は認める。

(2) 同(二)(2)の事実のうち、被告がパンフレットの配布及び説明会の開催により一般人に対し住宅付市街地施設の建設用地の提供を求めたこと、昭和三一、三二年度のそれらの内容がイないしハのようであったこと、同三三年度以後の内容がイ、ロのようであったことは認めるが、その余は否認する。

同(2)の事実のうち、原告東京湾建物ら四名及び宮代ら三名が同(1)イ、ロの誘引を受け、別表二③敷地欄記載の土地を被告に提供したこと、施設の譲渡手続当時、被告東京支所長山名酒喜男、同関東支所長青木亮がそれぞれ権限を有していたことは認めるが、その余は否認する。

同(3)の事実のうち、原告ら主張の者らから被告に対し施設譲受の申込がなされたことは認めるが、その余は否認する。

(3) 同(三)(1)ハの事実は認める。

同(2)イの事実のうち、本件各建物が住宅付市街地住宅の住宅部分であることは認めるが、その余は否認する。

同ロないしホの事実は否認する。

同ヘの事実のうち、宮代茂儀、原告岡崎合資会社、同株式会社岩月ビル、同上郎敏行と被告との間で覚書が作成されていたことは認めるが、その余は否認する。

(4) 同(四)の事実は、不知ないし争う。

(二) 当事者参加人らの主張

(1) 原告ら主張の期限付譲渡契約が締結されていないことは、次の事情からも明らかである。

イ 被告は、一、二階を店舗、事務所のような施設とし、上層を一般賃貸住宅とするいわゆるゲタばきアパートといわれる住宅付市街地施設を昭和三一年一〇月ごろから建設してきたが、昭和三一、三二年度の右建設方針においては、その敷地提供者に対し当該建物建設後(正確には、施設部分の譲渡契約締結後)一〇年経過後希望する者にはその住宅部分も含めた建物全体を譲渡するといういわゆる「一〇年後譲渡」の方針を掲げていた。ところが、昭和三三年には、一〇年という確定期間を定めて被告の賃貸住宅(住宅部分)を払い下げるということは好ましくないとして右建設方針が変更され、爾来、被告が建物を他に譲渡する場合には施設譲受人に対して優先して払い下げるといういわゆる「将来譲渡」に方針が変更され、さらに同三五年度以後は、この将来譲渡の方針も変更され、建物を第三者に譲渡することがあるという方針自体がなくなり、あくまで被告が自ら賃貸住宅の管理を継続するという方針となった。

そして、右昭和三一、三二年度の建設方針から同三三年度の建設方針への変更は、昭和三三年四月一日付建設方針として文書で明確にされ、被告の本所より各支所へ周知された。

そして、被告は、「一〇年後譲渡」の約をする場合にも、譲受希望者との間で、通常、施設譲渡契約を締結すると同時に覚書をかわしていたが、昭和三三年度に譲渡契約を締結した者、少なくとも同年度中に工事発注した者との間では、同年度の建設方針に従って建設ならびに諸契約をした。

そして、被告は、昭和三三年八月頃以後の施設譲渡契約締結者に対しては「将来譲渡」の方針で説明をし、従って、「一〇年後譲渡」の契約を締結したことはない。

なお、原告らは甲二号証のパンフレットを見て申込みをしたと主張するが、同パンフレットはあくまでも同三二年度のものであって、前記方針変更のはるか後になっても、被告職員が右パンフレットをもって説明するなどということはありえない。

ロ 原告ら六名に関する施設譲渡契約及び割賦金総額確定契約は、いずれも昭和三四年以降であり、宮代茂儀、原告岡崎合資会社、同株式会社岩月ビルと被告との間には、「将来譲渡」の覚書が作成されている。

これらの事実に照しても、原告ら主張の「一〇年後譲渡」の契約が締結されていないことが明らかである。

(2) 仮に原告ら六名主張の各期限付譲渡契約が締結されたとしても、右契約は、次の理由により無効であるというべきである。

イ 被告の直接管理(責任)の原則

規則一五条は、「特別の必要がある」場合にかぎり、「建設大臣の承認を得て」被告は賃貸住宅を賃借人らに譲渡しうると定め、被告の賃貸住宅払下げにつき厳しい制限を課している。

このような規定が設けられた趣旨を考えてみると、そもそも公団住宅としての賃貸住宅は「住宅に困窮する勤労者のために」設営されたものであり(法一条)、被告は、その「建設」のみならず、「管理」をも基本業務として義務づけられていること(法三一条一項一号)、また、右管理の基準も、賃借人の募集からはじまり、賃貸条件の決定や家賃の決定・変更に至るまで、公団住宅ならではの特別の基準が建設省令で法定されていることなどの事情に照らして明らかなように、賃貸住宅の管理は、被告みずからがあたり、被告が第三者(わけても私人)に管理の責任を委譲することは許されぬ建前がとられている。このような被告の直接管理(責任)の原則は、右のような賃貸住宅の特殊な管理は被告でなければ到底その履行が期待されえぬこと(民間の私人では右の管理条件の実施ができるかについて法的に問題があるうえ、事実上期待不可能であること)、被告は、まさにそのための公法人として設置されたものであること、もし被告が賃貸住宅をほしいままに第三者に譲渡するなどして、その管理責任を免脱できるものとすれば、「住宅に困窮する勤労者のため」という公団住宅本来の趣意は没却されてしまうことなどからして、当然の建前である。

このような被告の直接管理(責任)の原則ゆえに、法はその例外をきびしく限定したわけで、その一が「特別の事由により必要があると認めるとき」に「建設大臣の承認を得て」なされる用途廃止の場合であり(規則一五条三項)、その二が前述した賃借人らへの譲渡の場合にほかならない。ただ、これらの場合も、被告の賃貸住宅に関する直接管理責任の免脱ないし放棄が認められる場合というよりは、むしろ直接管理が不要もしくは不可能となる場合であって、形式的には公団の直接管理の責務が免脱されるといっても、実質的にその管理責任が放棄されるわけではないから、厳密には、被告の直接管理の原則の「例外」というべきではなく、むしろここでも右の原則が貫徹させられているというべきである。

ロ 規則一五条一項の趣意

叙上のごとき法令の趣旨に鑑みるときは、規則一五条一項は以下のように解釈されるのが相当である。

まず第一に、同条項が賃貸住宅譲渡の対象者を「賃借人、当該賃貸住宅の建設と一体として建設された法第三一条第一項第三号の施設の譲受人又は会社その他の法人」に限定したのは、これらの者への譲渡であればいかなる範囲・状態の賃貸住宅でも譲渡できるとした趣旨ではなく、当該「賃借人」が現に自ら賃借利用している賃貸住宅、あるいは当該「施設の譲受人」が譲受けた施設と一体として建設された賃貸住宅のうち、空家であり、かつ施設譲受人らが自ら利用すべき部分にかぎって、譲渡できるとした趣旨と解される。何故なら、もし「施設の譲受人」が賃借人において現に賃借利用中の賃貸住宅の譲渡を受け、被告より賃貸人たる地位を承継するようなことがあれば、被告の直接管理(責任)の原則にそむき、公団住宅は公団住宅でなくなり、従来からの賃借人はその地位を脅かされるに至るであろうからである。

第二に、同条項にいわゆる「特別の必要がある」場合とは、叙上の趣意に照らすならば、被告において当該住宅を住宅に困窮する勤労者の利用に供することをやめても、なおこれを譲渡するに足るだけの高度の客観的な必要性が存する場合であると解せられる。用地取得の際地主との間に将来譲渡の約諾があるなどの事情が存するからといって、直ちに右の「特別の必要がある」場合にはあたらないことはもとよりであり、公団住宅政策全体の見地にたって、客観的かつ総合的に「特別の必要」の有無は判定されねばならない。

第三に、同条項は右の「特別の必要がある」場合であることと並んで、「建設大臣の承認」が得られることを譲渡の必要条件としているが、譲渡が適法とされるためには、両者がともに充足されていることが必要であることは言うまでもない。

ハ 本件の場合

これを本件についてみると、第一に、原告らの主張する期限付売買契約が有効であれば、賃貸住宅建設後一〇年の経過とともに原告ら六名は、当事者参加人らが現に賃借利用中の住宅をも譲受けることになるのであるから、これは明らかに被告の直接管理(責任)の原則にそむき、規則一五条一項の趣旨に反するものといわねばならない。

のみならず、第二に、右期限付売買契約に関しては、同条項が要件とする「特別の必要」の存在を認めることができない。何故ならば、「一〇年後譲渡」が昭和三一、三二年度の建設方針に入れられたのも、当時、住宅金融公庫、住宅協会などで採用していたので、それに習って採用したというにすぎず、「一〇年後譲渡」の制度そのものが充分に検討された結果「特別の必要」があるとしてとり入れられたものでないことが明らかであるからである。

原告らは、当時地価が上って住宅建設用地の確保が困難であったと主張するが、原告主張の理由は、とうてい前記「特別の必要」ありとする事情とはなりえない。

第三に、本件各建物の譲渡について建設大臣の承認がない。のみならず、建設大臣は、国会において、昭和三三年度以後の建設にかかる賃貸住宅については譲渡をしないことを明言しており、将来ともに建設大臣が一五条の承認をしないことも明らかである(昭和四六年三月二六日参議院予算委員会第三分科会会議録第四号)。

ニ 規則一五条一項違反の譲渡契約の効力

そこでこのような規則に反する譲渡契約の効力いかんが問題となるが、規則の諸規定のうち公団住宅政策の基本にかかわる規定(法一条、三一条、三二条、規則三条、九条、一三条等)に違背する私法的法律行為は無効であり、または、当該規定の趣旨に即して法律行為の内容が修正されるものと解しなければならない。何故ならば、もしこのような法律行為までそれ自体としては有効として放置されるときは結局において公団住宅制度の本旨が無に帰する虞れを生ずるからである。

本件で問題にされている規則一五条一項は、前述したごとく公団住宅を末永く公団住宅たらしめるための、被告の直接管理責任の原則をふまえた(例外)規定であって、公団住宅政策の基本にかかわる規定であり、したがって同条項に違反する原告ら主張の期限付売買契約は無効といわねばならない。

また、同条項は、講学上のいわゆる公企業法に属するが、これは、単に事実として同条項の趣旨に反した行為を禁止するという警察的取締規定ではなく、それ以上に同条項に反する法律行為等の効力までを否定し、もって公団住宅制度の本旨を全うせんとする効力規定と解されるから、この点においても同条項に違背する右売買契約は無効というべきである。

第三証拠《省略》

理由

第一原告らの請求について

一  原告らと被告との間において、次の事実は争いがない。

原告の請求原因(一)(1)(2)の事実、同(二)(1)の事実のうち、被告がパンフレットの配布及び説明会の開催により一般人に対し住宅付市街地施設の建設用敷地の提供を求めたこと、このとき被告は、(1)被告が土地提供者から該土地を賃借し、被告の費用をもって右土地上に商店、事務所などの施設を伴った耐久構造の住宅を建設する、(2)被告は土地提供者に対し、建物竣工と同時に右施設部分と一部の住宅部分を譲渡して、譲渡代金につき約一〇年間の割賦償還を受け、またその余の住宅部分について右提供者の優先的入居を認める旨の説明をなしたこと、被告が昭和三二年までに作成したパンフレットには右二点のほか、「一〇年後の譲渡、公団アパートは一般の人に賃貸しますが、一〇年経ちましたら、その時に決める価額でアパートのままあなたに譲渡してもよいことにします」と記載されていたこと、同(2)の事実のうち、原告東京湾建物ら四名と宮代ら三名が被告に住宅付市街地施設の敷地として原告ら主張の各土地を提供するに至ったこと、原告らに対する施設の譲渡手続の当時、山名酒喜男、青木亮両支所長(支所長は現在支社長と改名され理事でもある)が被告の代表権を有し、原告ら主張の担当者のうち多部健治を除くその余の者が、その頃被告の当該担当課に在籍し、両支所長の補助者として担当事務を行っていたこと、同(3)の事実のうち、原告ら東京湾建物ら四名と宮代ら三名から被告に対し施設譲受の申込がなされたこと、このうち、原告岡崎合資会社、岩月繃帯材料工業合名会社、舛田七右衛門の申込日及び同人らに対する被告の譲渡承認の日が、別表一の一②、③欄記載のとおりであること、同(三)(1)イないしハの事実、同(2)ハ(ハ)abの事実のうち、多部健治を除く原告ら主張の職員が補助者として担当事務を行ったこと、同(2)ニの事実のうち、原告宮代商事有限会社、同三佳興業株式会社、同株式会社岩月ビルが別表一の一⑥変更契約欄記載のとおり、被告の承諾をえて、それぞれ宮代ら三名の施設譲渡契約等の各契約(期限付売買契約を除く)上の権利義務を承継したこと、同(2)ホの事実のうち、被告の川口理事が一部原告と本件各建物の件で昭和四八年一一月一七日会談し、被告の意向を表明したこと、同(2)ヘの事実のうち、被告と原告ら主張の当事者との間で覚書が作成されていること、被告が覚書の有無に拘らず施設譲受人に対する住宅部分の一〇年後譲渡を完了した例があること、以上の事実は、争いがない。

二  前記争いがない事実と、《証拠省略》を総合すれば、以下の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  被告は昭和三〇年七月八日法律第五三号日本住宅公団法に基づき同月二五日設立された特殊法人であり、「住宅の不足の著しい地域において住宅に困窮する勤労者のために耐火性質を有する構造の集団住宅及び宅地の大視模な供給を行うとともに健全な市街地を造成する」(法第一条)という目的を達成するため、「市街地において公団が行なうことが適当である場合において、事務所等の用に供する施設の建設を行なうことが適当である場合において、それらの用に供する施設の建設、賃貸その他の管理及び譲渡を行なうこと」(法第三一条第三号)を業務の一としているところ、設立の翌年である昭和三一年度から、住宅用地の取得を容易にするとともに、市街地の高度利用による再開発を促進するため、商店、事務所、倉庫等の施設と一体として賃貸住宅(以下「賃貸住宅」といい、両者を合体した建物を「住宅付市街地施設」という)を建設する方針を立て、これを実施してきた。

2  住宅付市街地施設建設事業(以下「本件事業」という)の手続は、概略以下のとおりである。

被告は、住宅付市街地施設の建設用地を土地の所有者または借地権者(以下「土地提供者」という)から賃借し、または、同人と共同で賃借することとし、土地提供者が希望するときは、書面(特定分譲施設等譲受申込書)による申込を受けて適地の判定、申込者の資格等を調査し、所定の基準に合格した場合には、土地提供者に対し、施設の譲渡承認を与える。その後、被告は土地提供者と地質調査工事受託等契約、設計業務受託等契約を締結して地質調査及び建物の設計を行い、一方、建設用地につき土地の提供者との間で土地賃貸借契約(土地提供者が借地権者であるときには土地所有者との間で土地提供者と被告とが借地権を共有する旨の契約)を締結する。そして、右各契約が締結され建物設計完了後、被告は、土地提供者との間で施設の譲渡契約を締結して建物の建設に着手し、建物が完成した後施設の譲受人との間で譲渡代金を確定して割賦金総額確定契約を締結し、以後譲受人から譲渡代金の償還を受ける。

3  本件事業に関する被告内部における権限及び業務の分担は以下のとおりである。

(一) 被告は、昭和三〇年九月八日東京支所を設け、東京都と関東地方、東北地方等の業務を取扱わせたが、同三二年四月一日関東支所を設けることにより、東京支所には東京都、千葉県、山梨県、東北地方、北海道の業務を、関東支所には右都県を除く関東地方と長野、新潟両県の業務をそれぞれ担当させた。従って、原告らのうち、原告宮代商事有限会社と同上郎敏行に関する業務は関東支所、その余の原告らに関する業務は東京支所の所管である。右両支所における、住宅付市街地施設に関する業務を担当している課は、東京支所につき賃貸住宅課(昭和三二年三月三一日まで)、住宅企画課(同年四月一日から同三四年四月七日まで)、市街地住宅課(同月八日以降)であり、関東支所につき住宅企画課(同四〇年四月三〇日まで)、市街地住宅課(同年五月一日以降)である。

(二) 被告における契約締結の担当者は以下のとおりである。

法第二〇条は「公団に役員として総裁一人副総裁一人理事五人以上及び監事三人以上を置く」とし、法第二一条は、役員の職務及び権限について「総裁は公団を代表しその業務を総理する。副総裁及び理事は定款の定めるところにより公団を代表する」等と規定する。更に昭和三一年二月一日住宅公団規程第四号日本住宅公団会計規程第七条は、会計機関の一つとして契約担当役を定め、同第八条第一項は、「契約担当役は契約及び被告の支出の原因となる行為を担当する」と定めている。被告の東京支所及び関東支所(現在は支所が支社と改められた)の右契約担当役は、「昭和三一年二月六日住宅公団達第九号会計機関設置に関する達」により、その支所長(いずれも理事)である旨が定められ、同三五年五月三日日本住宅公団会計事務細則第二条でそのまま踏襲された(なお、同三一年四月二五日分任契約担当役が設けられ、契約担当役の権限の一部について委譲があったが、不動産に関する契約は、そのまま右契約担当役の職務に残されている。)。従って、右各支所においては、支所長及び支所長から委任を受けた者が不動産に関する契約締結の権限を有する。

(三) 被告の組織規程によると、被告東京支所及び関東支所において住宅付市街地施設に関する事務を担当していた賃貸住宅課、住宅企画課、市街地住宅課は、右施設建設計画の立案、設計、賃貸住宅以外の施設の譲渡契約の締結等の事務をつかさどることと定められているが、賃貸住宅の譲渡契約締結の事務をつかさどるものとは定められていない。したがって、前記各課に属した別表一の二②欄記載の各担当者ら(多部健治を除く)が賃貸住宅の譲渡契約の締結について前記各支所長から組織規程上当然にその権限を与えられていたものということはできない。

4(一)  被告は、昭和三一年一〇月以後、各年度(一年度は、当年四月から翌年三月まで)ごとに住宅付市街地施設(住宅)建設の基本方針を立てこれを文書に作成し、被告の各支所に通達していたが、昭和三一年度及び同三二年度の基本方針においては、住宅付市街地施設の用地を取得する手段として土地提供者に対し、希望すれば施設の譲渡契約締結の一〇年後に賃貸住宅の譲渡を約する、いわゆる「一〇年後譲渡」を認めていた。即ち、「昭和三二年度市街地施設の建設方針について」と題する書面の2―8においては、「土地の提供者が施設部分の譲渡を受けた後、一〇年経過後に住宅部分の譲受を希望すれば、これを譲渡すことができるものとし、必要があれば、公団は土地の提供者と覚書を交換するものとする。但し、支払方法及び価額については譲渡の際に定めるものとする。」と規定されていた。そして、被告の本所は、右書面とともにその趣旨を平易に説明したパンフレットを支所に送付し、これによって住宅付市街地施設の宣伝活動をするよう指示し、右本所が作成した施設譲受希望者を対象とする同年度のパンフレットには、「一〇年後の譲渡―公団アパートは一般の人に賃貸しますが、一〇年経ちましたら、その時に決める価額でアパートのままあなたに譲渡してもよいことにしますから、譲受けられるご希望がありましたら必要な覚書を交換いたします。」旨が記載されていた。

(二) そのため、被告の東京支所、関東支所の各住宅企画課の担当者らは、説明会等を開催して右書面ないしパンフレットに基づき住宅付市街地施設建設に関する契約の申込の誘引をするに当たり、(1)被告が土地提供者から該土地を賃借し、被告の費用をもって右土地上に商店、事務所等の施設部分を伴った耐久構造の住宅を建設する(2)被告は土地提供者に対し、建物竣工と同時に右施設部分と一部の住宅部分を譲渡して、譲渡代金につき約一〇年間の割賦償還を受け、またその余の住宅部分について右提供者の優先的入居を認める(3)被告は右提供者又はその指定する者に対し、残余の住宅部分を契約日より一〇年後に適正価格で譲渡する旨を説明した。

そして、被告は、右方針に基づき、昭和三一年度、同三二年度においては、土地提供者のうち賃貸住宅の譲受を希望する者との間で、覚書をとりかわし、あるいは口頭により、賃貸住宅の「一〇年後譲渡」を約する契約を締結していた。

(三) ところが、右のような被告の「一〇年後譲渡」の方針に対し建設省から賃貸住宅の譲渡時期を施設譲渡の一〇年経過後と確定的に決めておくのは好ましくないとの考え方が示されたため、被告の住宅付市街地施設の昭和三三年度の建設方針(同三三年四月一日付の「昭和三三年度市街地特定分譲施設の建設方針について」と題する通達)においては、「賃貸住宅の施設譲受人への譲渡―公団は、賃貸住宅を他に処分することになった場合は、当該施設の譲受人にこれを譲渡することが出来るものとし、公団は譲受人と覚書を交換してもよいものとする。但し、譲渡の条件等は譲渡の際定めるものとする。」と定め、賃貸住宅の土地提供者に対する譲渡を被告の将来の決定にかからしめる、いわゆる「将来譲渡」の方針に変更した。そして、同三二年度に施設譲受の申込をしたが、被告の予算上の都合で同年中に契約締結に至らなかった者についても右「将来譲渡」の方針によって契約を締結すべきことが、右同三三年度の建設方針の中で明らかにされていた。

しかし、右「将来譲渡」の方針は、前記通達が発せられた後も直ちには被告の各支所の末端の担当者らに浸透せず、同年八月ころ、被告本所は、東京支所、関東支所等に対して、「将来譲渡」への方針の変更を明確に伝え、「今後賃貸住宅の譲受希望者との間で交換する覚書の内容を『将来譲渡』を内容とするものにする」旨を指示したが、その後も、右方針を明らかにしたパンフレットが作成されなかったこともあって、各担当者の中には、同年度の賃貸住宅の譲渡条件が従来どおりであると誤信して、土地提供者に対する契約の申込の誘引に当たり、前記(二)(1)ないし(3)の内容を説明した者もあった。

(四) 被告は、同三四年度以後の住宅付市街地施設の建設方針についても、同三三年度の建設方針と同様に賃貸住宅の譲渡について「将来譲渡」とする旨を定め、同三四年度の右の旨の通達を同年二月二五日各支所に交付し、また、新たに同三四年度のパンフレットを作成し、これには「公団アパートを将来処分するようなことになりました時には、あなたがご希望ならばあなた(法人に限ります)に優先的に、その時に決める条件でアパートのままお譲りすることにいたします。」と記載されており、同三五年度のパンフレットからは住宅部分の処分に関する項目を一切削除した。その結果、同三四年度以降においては、被告の末端の担当員も、施設譲受の申込を受け付けるにあたり確実に「将来譲渡」の趣旨を説明しており、同三四年度以降、賃貸住宅の譲受を希望する者との間においては(イ)「甲(被告)ハ甲所有ノ末尾表示ノ建物(賃貸住宅)ヲ他ニ譲渡スルコトニナッタ場合ニオイテ、乙(申込者)ノ指定スル会社等ノ法人(以下丙トイイマス)が、甲ノ定メル期間内ニ、当該建物ノ譲リ受ケヲ希望スルトキハ、当該建物ヲ他ニ優先シテ丙ニ譲渡スルコトニ致シマス」、あるいは(ロ)「甲(被告)ハ甲所有ノ末尾表示ノ建物(賃貸住宅)ヲ他ニ譲渡スルコトニナッタ場合ニオイテ乙(提供者)ガ甲ノ定メル期間内ニ当該建物ノ譲受ヲ希望スルトキハ当該建物ヲ他ニ優先シテ乙ニ譲渡スルコトニ致シマス」という内容の覚書を取り交わしていた。

5  原告らは、以下のとおり、本件事業に関する契約手続をした。

(一) 原告宮代商事有限会社関係

宮代茂儀は、別表二③欄記載の土地を所有していたが、昭和三二年暮ないし同三三年初めころ、川崎市役所の浦野建築課長及び被告の関東支所の職員などから、本件事業の概略と「一〇年後譲渡」について前記4(二)(1)ないし(3)の内容の説明を受け右土地を住宅付市街地施設の用地として提供するよう勧められ、これを拒絶していたが、その後知人が本件事業によってその所有地上に住宅付市街地施設を建てたことを知ったことが契機となって同三四年春ころ、被告関東支所に対して施設譲受の申込をし、その後譲渡承認を得て、同年一〇月二四日被告と特定施設譲渡契約及び前記土地についての賃貸借契約をそれぞれ締結し、同時に、前記4(四)(イ)の内容の覚書に署名捺印しこれを被告に差し入れ、別表二①、②欄記載の規模、名称の市街地施設が竣工したのち、同三五年八月二四日被告と割賦金総額確定契約を締結し、同三六年三月一五日被告の承諾を得て、原告宮代商事有限会社との間で、宮代茂儀の契約上の地位を同原告に承継させる趣旨の特定分譲施設の再譲渡契約を締結した。

(二) 原告東京湾建物株式会社関係

原告東京湾建物株式会社(変更前の称号株式会社熊谷造船鉄工所)は、昭和三五年首都高速道路公団によって所有地を道路用地として買収されたことが契機となり、貸ビル、不動産管理の営業を企画していたところ、同原告の代表取締役藤山宏が同三二年に被告が作成したパンフレットを見ていたことがあったので、同三六年五月一八日被告東京支所の説明会に出席し、この時の説明を聞いてそのころ施設譲受の申込をし、その後譲渡承認を得て、同年一二月一八日被告との間で特定分譲施設譲渡契約、及び同原告が所有している別表二③欄記載の土地についての賃貸借契約をそれぞれ締結し、同表①、②欄記載の規模、名称の住宅付市街地住宅が竣工した後、同三八年九月一日被告と割賦金総額確定契約を締結した。

(三) 原告三佳興業株式会社

舛田七右衛門は、別表二③欄記載の各土地を所有していたが、知人の高山某、親戚の小島重次らから本件事業の説明を受け、契約の申込を勧められたので、昭和三二年の末ないし同三三年初めころから被告東京支所において本件制度及び前記4(二)(1)ないし(3)の内容について説明を受けた後、同三四年一〇月二一日、施設譲受の申込をし、同三五年初めころ譲渡承認を得て、被告との間で同年七月二五日に特定分譲施設譲渡契約、同三七年六月一八日前記土地の賃貸借契約を締結し、同日被告の承諾を得て原告三佳興業株式会社との間で、舛田七右衛門の契約上の地位を同原告に承継させる趣旨の特定分譲施設の再譲渡契約を締結し、別表二①、②欄記載の規模、名称の市街地施設が竣工した後、同年七月一七日、同原告は被告との間で割賦金総額確定契約を締結し、同時に前記4(四)(ロ)の内容の覚書を作成して被告に差し入れた。

(四) 原告岡崎合資会社関係

原告岡崎合資会社は、別表二③欄記載の土地を所有していたが、同三三年五月ころ同原告代表社員岡崎兵馬が建設省の課長浅野六郎から被告作成の同三二年度のパンフレットを示されて、本件事業と前記4(二)(1)ないし(3)の内容の説明を受け、住宅付市街地施設の用地として右土地を提供するよう勧められたので、同三三年八月ころ、被告の東京支所長山名酒喜男に面会して契約の内容を確認し、その際同人から「一〇年後譲渡」の説明をきき、そのころ施設譲渡の申込をしようとした。ところが、被告から、同年度中の本件事業のための予算が既に受付けた分で尽きているので同三四年度の募集分に対する申込であれば受付ける旨告げられたので、同原告は、これを諒承して同三四年四月二日改めて施設譲受の申込をして、同年七月二三日譲渡承認を得、被告との間で同年一二月一六日前記土地についての賃貸借契約、同月二四日特定分譲施設譲渡契約、同三六年七月二四日割賦金総額確定契約をそれぞれ締結するとともに、右同日前記4(四)(ロ)の内容の覚書を作成して被告に差し入れた。

(五) 原告文京ビル株式会社関係

武井又三は、別表二③欄記載の土地を所有していたところ、昭和三三年一〇、一一月ころ、知人の穴沢一から被告作成の同三二年度のパンフレットを示され本件事業の概略と「一〇年後譲渡」の説明を受け、被告に対する施設譲受の申込を勧められたので、右申込をすることに決め、同人に被告との契約手続一切を任せた。同人は、被告職員の説明を聞いたうえ、同三五年一一月ころ武井又三を代理して被告東京支所に対して施設譲受の申込をし、譲渡承認を得た。そして、同三六年八月設立され右武井が代表取締役となった原告文京ビル株式会社は、右譲渡承認に基づき、被告との間で同三七年七月二四日前記土地の賃貸借契約、特定分譲施設譲渡契約を締結し、別表二①、②欄記載の規模、名称の住宅付市街地施設が竣工した後、同三八年七月二九日特定分譲施設譲渡代金確定契約を締結した。

(六) 原告上郎関係

原告上郎敏行は、上郎幸の子であり、昭和三六年一二月六日、相続により幸所有の別表二③欄記載の土地を取得したものであるが、同三三年初めころ、知人の建設会社社員岡野某から本件事業の説明を受け右土地を提供して被告に施設譲受の申込をしてはどうかと勧められたので、上郎家の差配をしていた高山常次郎に右申込及び被告との契約締結を委任した。そこで、同人は、同原告の代理人として、同三三年五、六月ころ神奈川県建築会館において被告の職員から本件事業の概略及び「一〇年後譲渡」について説明を受けたうえ、同三五年六月頃被告の関東支所に対し、施設譲受の申込をし、その後譲渡承認を得て、被告との間で同三五年八月一八日右土地について賃貸借契約、同年一〇月二八日特定分譲施設譲渡契約をそれぞれ締結し、また、右同日前記4(四)(イ)の内容の覚書を作成して被告に差し入れ、別表二①、②欄記載の規模、名称の市街地施設が竣工したのち、被告と同三六年七月二四日割賦金総額確定契約を締結した。

(七) 原告株式会社岩月ビル関係

岩月繃帯材料工業合名会社は、別表二③記載の土地をその所有者醍醐貴与一から賃借していたが、右会社の役員をしていた岩月勝郎が昭和三三年秋ころ、被告職員から前記4(二)(1)ないし(3)を内容とする説明を受けたうえ、右会社の代理人として、同三四年四月一五日被告東京支所に対して施設譲受の申込をなし、同年七月一三日譲渡承認を得て、被告との間で同年一〇月三〇日特定分譲施設譲渡契約を、同三五年八月九日前記土地についての賃貸借契約を締結した。そして、同日原告株式会社岩月ビル、岩月繃帯材料工業合名会社、被告との間で、同原告が右合名会社の被告との間の契約上の地位を承継する旨の契約をし、別表二①、②欄記載の規模、名称の市街地住宅が竣工した後、同原告と被告との間において、同月二九日割賦金額確定契約を締結し、同時に、前記岩月勝郎が同原告代表取締役岩月庄五郎から権限を授与されて同人名義で前記4(四)(ロ)の内容の覚書を作成して被告に差し入れた。

(八) なお、原告らから被告に対して、施設譲受の申込の際に提出された「特定分譲施設等譲受申込書」及びその後原告ら(及びその関係人)と被告との間で取り交わされた各種契約書には、前記覚書を除いて住宅の譲渡に関する記載が一切ない。

以上の事実を認めることができる。

三  前記認定事実に基づき原告ら主張の賃貸住宅についての期限付売買契約が成立したかどうかについて検討する。

宮代茂儀、原告東京湾建物株式会社、舛田七右衛門、原告岡崎合資会社、武井又三、原告上郎敏行、岩月繃帯材料工業合名会社(以下宮代ら七名という)は、いずれも、被告が土地提供者に対する賃貸住宅の譲渡につき「一〇年後譲渡」から「将来譲渡」へ方針を変更し、そのことが被告の各支所の担当者にも浸透して右担当者においても「将来譲渡」の趣旨を説明していた昭和三四年度以降において、被告に対し施設譲受の申込をしたものであるところ、宮代ら七名は、右申込に先立ち、その本人、代表者あるいは代理人において、「一〇年後譲渡」の趣旨を説明した被告の昭和三二年度発行のパンフレットを見たり、昭和三三年度以前における被告職員の「一〇年後譲渡」の説明を受けたりして、右申込にあたり施設譲受契約成立後一〇年を経過すれば賃貸住宅の譲渡を受けられるとの期待をもっていたことが窺えないではない。しかし、右パンフレットや被告職員の「一〇年後譲渡」の説明は、前記認定の本件事業における契約手続に照すと、せいぜい契約申込の誘引にすぎず(この点は、原告らにおいても自認するところである。)、右説明を受けた宮代ら七名が、被告において前記のとおり方針を変更し「一〇年後譲渡」の意思を有しなくなった昭和三四年度以降の時点において、賃貸住宅の「一〇年後譲渡」を受けられると信じて被告に対し施設譲受の申込をしたとしても、そのことだけで右当事者間に「一〇年後譲渡」についての合意が成立したものということができない。そして、右宮代ら七名が被告に提出した施設譲渡の申込書、その後右宮代ら七名と被告間でそれぞれ取り交わされた特定分譲施設譲渡契約書等の各種契約書のいずれにも「一〇年後譲渡」を約する記載はなく、また、右宮代ら七名と被告との間において口頭ないし黙示的に「一〇年後譲渡」の合意が成立したと認めるに充分な証拠もない。

かえって、昭和三四年度以降においては、被告が施設譲受の申込を受け付けるにあたっては、申込者に対し被告職員において「将来譲渡」の趣旨を説明し、賃貸住宅の譲受を希望する者との間においては「将来譲渡」の合意を記載した覚書を取り交わすことにしていたところ、宮代茂儀、舛田七右衛門、原告岡崎合資会社、原告上郎敏行、岩月繃帯材料工業合名会社と被告との間には、右「将来譲渡」の覚書が取り交わされているのであるから、右の者らの間においては賃貸住宅の譲渡につき、被告が将来処分をするときには優先して譲渡を受けられる旨の「将来譲渡」の合意が成立しているのであり(右合意が衡平の原則に反し無効である旨の原告らの主張は採用できない。)「一〇年後譲渡」の合意が成立していないことが明らかである。また、原告東京湾建物株式会社及び武井又三と被告との間には、いずれも右覚書が取り交わされていないのであるが、右両名が施設譲受の申込をしたのは、被告の担当職員が施設譲受の申込を受けるにあたり確実に「将来譲渡」の趣旨を説明するようになった後の昭和三五年度以降であり、右申込をした東京湾建物株式会社の代表取締役藤山宏、武井又三の代理人穴沢一は右譲受の申込をするにあたり、被告の職員から「将来譲渡」の説明を受けていたものと推認され(右推認を覆すに足りる証拠はない)被告との間で覚書も作成しなかった以上、賃貸住宅譲渡に関する合意をしなかったものと推認することができる。

四  原告らは、被告の理事川口京村が昭和四八年一一月一七日原告らに対して原告ら主張の期限付売買契約の成立を承認したから、被告は右契約を追認したと主張するが、前述のとおり原告ら主張の期限付売買契約がそもそも締結された事実が認められない以上、それが被告の追認によって効力が発生することはないというべきであるのみならず、《証拠省略》によっても、被告の理事川口京村が被告らに対して原告ら主張の期限付売買契約の成立を事後に承認したことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はないから、前記原告ら主張はこれを採用することはできない。

五  以上の次第であるから、原告らの請求は、その余の主張について判断するまでもなく、失当である。

第二当事者参加人らの請求について

一  当事者参加人らの民事訴訟法七一条に基づく参加申出の適否について

当事者参加人らは、原告三佳興業株式会社を除く原告ら六名と被告との間の当事者目録第三欄記載の当該各室に関する各本訴につき、民事訴訟法七一条前段の「訴訟ノ結果ニ因リテ権利ヲ害セラルヘキコトヲ主張スル第三者」にあたるものと主張し、同条による参加の申出をするが、右同条前段の要件事実として主張するところは、要するに「当事者参加人らは、被告から本件賃貸住宅の一室を賃借しているが、その賃貸人が日本住宅公団であり、日本住宅公団法、同施行規則が適用される結果、右賃貸借関係においては、(一)賃貸人たる被告は「特別の必要」がない以上賃貸住宅を他に譲渡しない債務を賃借人たる当事者参加人らに負っていること(規則一五条)、(二)入居対象者が限定されていること(同一三条等)、(三)入居者の決定が公正になされること(同一四条)、(四)権利金等の受領が禁止されていること(同一一条)、(五)家賃の値上が制限されていること(同一〇条)、(六)実際上賃貸人の自己使用の必要等の正当事由による明渡請求が行なわれないこと、(七)管理制度が整備されていること等の諸点において、民間の賃貸借契約にはみることのできない利益を享受しているところ、前記本訴において被告が敗訴すると、被告の(一)の債務が履行不能となり、かつ、原告ら六名が本件賃貸住宅の賃貸人たる地位を承継する結果、当事者参加人らは、前記(二)ないし(七)の利益を失うことになる。また、前記本訴は原告ら六名と被告との馴合訴訟である。」というのである。

しかしながら、規則一五条は、政策的見地から、被告が賃貸住宅を譲渡するには、「特別の必要」及び建設大臣の承認を要件とする旨を規定しているが、右規定があるからといって被告が賃貸住宅の賃借人らに対して、特別の必要がない場合には賃貸住宅を他に譲渡しないという義務を当然に負担するものと解することはできない。また、そのことは、被告と賃借人が同規則が施行されていることを前提として本件各賃貸借契約を締結したとしても、同様であると解される。

そして、当事者参加人らは、被告との間で本件賃貸住宅の各一室につき賃貸借契約を締結し、その引渡を受け占有しているというものであるから、仮りに被告から原告ら六名に本件各賃貸住宅が譲渡されその対抗要件が具備されたとしても、これに伴い賃貸人の地位が被告から原告六名に承継され、従来当事者参加人らと被告との間に成立していた賃貸借契約関係は、そのまま当事者参加人らと新賃貸人である右原告ら六名との間に引き継がれることになる。従って、当事者参加人らの法律上の地位は、原告ら六名と被告との間の本件訴訟の結果により影響されるものではないといわなければならない。

もっとも、被告の賃貸住宅については、その家賃の決定、変更に関する規則一〇条、一一条の定めがあるほか、被告が法一条に定める公共的・非営利的目的を有する法人であることから、その賃借人が、一般の住宅よりも家賃の負担が低廉であったり、賃貸人から自己使用の必要を理由とする明渡請求を求められることがない等の利益を有することは否定できないところであり、賃貸人の地位が被告から原告ら六名に承継されることにより、当事者参加人らが従来被告との賃貸借関係において享有していた前記のような利益を失うことがないとはいえない。しかし、右のような当事者参加人らの利益は、被告の公共性・非営利性、これに由来する前記規則の定めがあることによって受ける反射的利益であり、被告との賃貸借契約における債権債務の内容になっているものではないと解され、当事者参加人らが前記賃貸人の地位の承継のため右のような利益を失うおそれがあっても、その法律上の権利・地位には影響がないものといわなければならない。

そして、本件訴訟の経過に照しても、被告が原告六名との間の本訴において馴合訴訟をしているものと認めることはできない。

そうすると、当事者参加人らには、被告と原告ら六名との間の本訴につき、民事訴訟法七一条前段にいう「訴訟ノ結果ニ因リテ権利ヲ害セラルヘキコトヲ主張スル第三者」にはあたらないものといわねばならず、当事者参加人らの同条に基づく参加の申出は不適法であるというべきである。

二  なお、付言するに当事者参加人らの本件参加の申出は、前述のとおり民事訴訟法七一条の要件を具備しないため、これを原告ら六名及び被告に対する独立の新訴の提起と解したとしても、弁論の全趣旨によれば、被告は、当事者参加人らがその主張にかかる賃貸住宅の各室につき賃借権を有することを否定する主張をしたり、そのような態度に出たこともなく、また、現在、被告が右のような主張・態度に出る不安、危険もないことが明らかであるから、当事者参加人らが被告との間で右賃借権の確認を求める訴は、その利益がなく不適法というべきである。

また、当事者参加人らは、原告ら六名との間において、本件各賃貸住宅の各室の所有権が被告に属することの確認を求めているが、当事者参加人らが右確認を求める目的は、原告ら六名が当事者参加人らに対して本件各賃貸住宅各室につき賃貸人としての権利を主張することを防止しようとすることにあることは、当事者参加人らの主張自体に徴しても明らかである。しかし、原告ら六名は、現在、被告に対し本件各賃貸住宅につき期限付売買契約を原因として代金支払と引換えに引渡及び所有権移転登記手続をすることを求める本件訴訟を提起しているとはいえ、いまだ、当事者参加人らに対して、自己らが本件各賃貸住宅の各室の賃貸人たる地位にあることを主張したり、右賃貸人としての権利行使を行なおうとしているものでないことは、弁論の全趣旨に照して明らかである。もっとも、原告ら六名が被告との間の本件訴訟に勝訴するなどして本件各賃貸住宅につき被告から所有権移転登記手続を受け、所有権移転の対抗要件を具備したときは、右のような賃貸人としての主張、権利行使に出るであろうことは、当然に予想されるところであり、そのようなときには、原告ら六名と当事者参加人らとの間には、本件各賃貸住宅の各室の賃貸借契約関係の存否につき紛争が生じることも当然に予想されるところである。しかし、現に原告ら六名において当事者参加人らに対し本件各賃貸住宅の各室の賃貸人としての権利主張をしておらず、かつ、右権利主張をするための対抗要件も具備していない以上、いまだ、原告ら六名と各当事者参加人との間には、権利関係の存否を確認しなければならない紛争は存しないといわなければならず、前記のような将来生じるかもしれない紛争の解決のために、当事者参加人らにおいて原告ら六名と被告との間の権利関係の存否の確認を求める利益はないといわなければならない。

以上の次第で、当事者参加人らの訴は、独立の新訴としても、不適法であるといわなければならない。

第三結論

よって、原告らの被告に対する請求は理由がないからこれを棄却し、当事者参加人らの参加申出を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 黒田直行 裁判官 桜井登美雄 裁判官長秀之は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 黒田直行)

<以下省略>

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